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【小平】趣深い庭園や芸術品を堪能できる「平櫛田中彫刻美術館」

西武多摩湖線一橋学園駅から徒歩10分、閑静な住宅街に建つ「平櫛田中彫刻美術館」では、生涯107歳まで創作活動を続けた彫刻家「平櫛田中」の様々な作品を観賞できる。

今回はこの平櫛田中彫刻美術館の魅力について、写真と一緒に紹介していきたい。

長寿の芸術家「平櫛田中」の彫刻美術館

平櫛田中彫刻美術館外観

平櫛田中先生は、その歳107歳まで創作活動を続けた長寿の彫刻家だ。岡山県の井原市に生まれ、美術界の指導者・岡倉天心(おかくら てんしん)や臨済宗の高僧・西山禾山(にしやま かさん)の影響を受けながら、仏教説話や中国の故事などを題材にした精神性の強い作品を制作した。

平櫛田中

元々は台東区にて長く制作活動を行っていたが、1970年に小平へ転居。その時住んでいた建物は「記念館(別名九十八叟院)」として平櫛田中彫刻美術館で保管されている。

平櫛田中彫刻美術館は、もともとこの邸宅を公開する目的で1984年に「小平市平櫛田中館」として開館したが、後に遺族の方から作品の寄贈を受けたことで、2006年4月に「小平市平櫛田中彫刻美術館」へ改名されたそうだ。

1階展示室

展示室

平櫛田中彫刻美術館では、平櫛先生が晩年に生活した「記念館」や数々の彫刻作品を鑑賞できる。まずは、入口から入ってすぐのところにある1階の展示室を歩いてみよう。

先に進んで左手にある映像室では、平櫛先生について紹介された動画を見ることができる。「平櫛田中ってどんな芸術家なんだろう」と感じる方に向けた紹介動画が流れているため、展示を見る前にぜひ立ち寄ってみてほしい。

そのまま先に進むと、数々の彫刻作品が展示されている。普段からあまり彫刻に触れない人でも親しみやすい作品も数々あるため、いくつか紹介しよう。

唱歌君ヶ代

まずはこちらの「唱歌君ヶ代」。唱歌を歌う子供の様子が彫られた作品だ。子供の軽やかな声が今にも聞こえてきそうで、歌を学んでいた筆者としては口の形や呼吸しているような自然な様子が大変気に入った。

新春

犬の彫刻

こちらは「新春」という作品だ。平櫛先生が当時飼っていた仔犬が、藪柑子を懸命に引っ張る様子をモデルにした彫刻で、ふわふわした毛並みの様子や躍動感ががひしひしと伝わってくる。

新春は制作エピソードも紹介されているのだが、そちらはぜひ直接見てみてほしい。作品そのものの見え方が、きっと変わってくるだろう。

後でお話しするが、平櫛先生の彫刻作品は素朴ながらも、どこか引き込まれるものがあると筆者は感じている。流れている時間をリアルに切り取ったような、印象深い作品揃いなので、ぜひ1つ1つじっくり鑑賞してみてほしい。

鏡獅子

鏡獅子

こちらは、平櫛先生の代表作の1つ「鏡獅子」だ。この鏡獅子は地下の展示室にある作品と関連があり、制作秘話も紹介されているため後ほど少し取り上げたい。

2階展示室

硯

続いては2階の展示室だ。こちらには、平櫛先生が生前集めていたコレクションや肖像作品が展示されている。

平櫛先生は文房具、とりわけ硯(すずり)を好んで集めていたようだ。2階の展示を見てみると色々なデザインの硯や、付随して使う筆などの品が並んでいた。

平櫛田中肖像彫刻

さらに先に進むと、平櫛先生が著名人に向けて作られた肖像彫刻が展示されたゾーンにたどり着いた。こちらの作品たちもついつい見入ってしまう風格があったので、紹介していきたい。

岡倉天心肖像彫刻

こちらは岡倉天心をモデルにした肖像彫刻で、1931年に東京藝術大学で設置された「岡倉天心像」の胸像になっている。「岡倉天心」といえば倫理の教科書でも名前を見かける思想家・美術行政家だが、なんと平櫛先生を指導されていた時期があったそうだ。

平櫛先生が天心に指導を受けた期間はわずかであったが、天心を生涯にわたって尊敬し数々の肖像彫刻を残している。今回鑑賞した彫刻に施された金箔も、尊敬の気持ちの表れだそうだ。

ウォーナー博士像

ウォーナー博士像

岡倉天心像の隣には、ウォーナー博士像が展示されていた。ウォーナー博士はアメリカの東洋美術史家で、来日後岡倉天心に師事している。この肖像彫刻はウォーナー博士が太平洋戦争中、文化財の集中する京都や奈良を爆撃から救うため奔走した功績をたたえて、平櫛先生が依頼を受け制作した作品だ。

それぞれ、モデルとなった2人がどんな人格だったのか、どんな立ち振る舞いをしていたのかどんどんイメージが湧いてくる作品になっている。ぜひじっくり、細部まで鑑賞してみてほしい。

地下展示室

気楽坊

気楽坊

最後の展示室、地下展示室を見ていこう。こちらにも、平櫛先生の代表作が数々展示されている。

筆者が特に気に入ったのは、地下の展示室に入ってすぐの右手にある「気楽坊」だ。見ているだけで何故かこちらも笑顔になってしまう、魅力にあふれた表情をしている。

気楽坊レターセット

帰りには、気楽坊を使った便箋と封筒のセットを購入させてもらった。他にも平櫛田中彫刻美術館では様々な商品が売られているため、気になる方はぜひ帰りにチェックしてみてほしい。

鏡獅子彫刻

そして、こちらは1階にもあった「鏡獅子」の名がついた作品だ。ここで、鏡獅子の制作過程の話について少し紹介しよう。

平櫛田中の「鏡獅子」

平櫛先生の「鏡獅子」は、近代彫刻の最高傑作と言われている彫刻作品だ。その高さはなんと2mもあり、実物は国立劇場のロビーに展示されている。

先ほど1階の展示室で鑑賞した鏡獅子は、実物の1/4サイズで作られた試作品だ。

地下の展示室には、先ほど紹介した試作の鏡獅子で色のついていない作品や、

鏡獅子頭部

鏡獅子「頭部」の試作品、なども展示されている。

平櫛先生は鏡獅子を作るにあたって、歌舞伎役者の六代目尾上菊五郎(おのえきくごろう)をモデルにした。六代目尾上菊五郎は、鏡獅子のもとになった歌舞伎舞踊「春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)」を演じた人物だ。

ちなみに、六代目の孫にあたる七代目尾上菊五郎は女優・寺島しのぶさんの父であるため、そこで「尾上菊五郎」の名前に聞きなじみがある方もいるかもしれない。

1937年に歌舞伎座で鏡獅子がかかった時、平櫛先生はなんと25日間も歌舞伎座へ通い続け、場所を変えながらひたすらに観察、六代目と相談した上でポーズを決めたのだという。

他にも「裸の状態」の鏡獅子試作品が見られたり、1階の映像室にてより細かい「鏡獅子の制作過程」が紹介されていたりと、平櫛田中彫刻美術館では鏡獅子制作の様子を様々な角度から知ることができる。

国立劇場の「鏡獅子」実物と合わせて、鑑賞をおすすめしたい作品の1つだ。

平櫛田中の彫刻作品に詰まった魅力

こうして平櫛田中彫刻美術館を歩き、彫刻作品を見て筆者が一番に思ったことがある。それは、平櫛先生の作品たちは「今にも動き出しそう」な感じがする、ということだった。

筆者は美術館や博物館に趣味で行くことはあったが、彫刻作品に特別詳しいというわけではない。しかし作品を見た時ふと、「これから動き出しそうだな」と感じたのだ。

どうしてなのかは分からないが、平櫛先生の作品にはどこか「呼吸」しているようなニュアンスがあるよう筆者は捉えている。生きて、呼吸するモチーフの時間の一部を捉えたような、自然でさりげないのに存在感のある感覚だ。

うまく言葉にできないのだが、この妙なリアリティは実際に観賞してこそ伝わる部分だと思う。ぜひ、直接足を運んでじっくり鑑賞してみてほしい。

巨匠・平櫛田中の見た景色

平櫛田中彫刻美術館庭園

そして平櫛田中彫刻美術館では、平櫛先生が晩年を過ごされた庭園も「記念館」として管理されている。

現在は改修工事の準備で入られる場所も限られているが、平櫛先生がどんな場所で、どんな景色を見ながら創作活動をされていたのか、どんな生活を送っていたのか…それらを肌で感じ取れる。

ししおどし

特に庭の景色、その見え方については、建築家の大江宏さんへ平櫛先生から色々な要望があったそうだ。改修工事が終わったら、筆者ももう一度見に行こうと思う。

お茶会などのイベントやグッズ販売も

平櫛田中彫刻美術館では、季節に合わせたお茶会やナイトミュージアム、ワークショップなど様々なイベントも開催されている。

感染症の影響等もあるため、気になる方は公式サイトのお知らせより、開催情報を随時確認してほしい。

加えて、平櫛田中彫刻美術館の入口では、先ほどお話ししたように平櫛先生の作品をもとにした様々なグッズも発売されている。ぜひ、気に入った作品があれば購入を検討してみてはどうだろうか。

 

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そして、平櫛田中彫刻美術館では「平櫛田中弁当」というお弁当も発売されている。

平櫛先生の好んだ食材や小平のお野菜などが使われたお弁当で、素朴な味わいを楽しむことができると評判のお弁当だ。

公式サイトから予約、もしくは電話で注文でき、フレッシュ多摩まるやす店頭・お届け・平櫛田中彫刻美術館のいずれかの方法で受け取れる。

気になる方はぜひ、公式サイトもチェックしてみてほしい。

平櫛田中彫刻美術館まとめ

平櫛田中彫刻美術館は、西武多摩湖線の一橋学園駅から徒歩10分で向かうことができる。近隣の「いろりの里」と駐車場の提携もされているため、車の場合はそちらか、もしくは近隣のコインパーキングを使うのがおすすめだ。

平櫛田中先生の躍動感溢れる彫刻作品は、私たちの心を癒し、新しいモノの見方や発見、気づきを与えてくれる。

日々の生活に疲れたときや新鮮な体験をしたいときにぜひ、ゆったり時間をとって鑑賞してみてはどうだろうか。

詳細情報・アクセス

住所東京都小平市学園西町1-7-5 ※詳しいアクセスはこちらから
最寄り駅西武多摩湖線・一橋学園駅
営業時間午前10時~午後4時(なるべく午後3時半までに入館)
定休日火曜日(祝日の場合その翌日)、年末年始(12/27~1/5)※展示替え等のため臨時休館することも
入園料一般300円(220円)、小・中学生150円(110円)※()内は20名以上の団体料金 ※特別展は都度設定
電話番号042-341-0098
公式サイトhttp://www.city.kodaira.tokyo.jp/dencyu/
提携駐車場「いろりの里」駐車場

※今回は、平櫛田中彫刻美術館様に特別な許可を経て写真を撮影しています。通常、鑑賞中の写真撮影は禁止になっていますので、無許可での撮影は控えるようお願いいたします。

鏡獅子
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