麻布十番で大人気だった本格ネパールカレーのお店adicurryが名前を変え『ADI』(アディ)として中目黒にリニューアルオープンしました。
さらにレベルアップしたADIはネパール料理初心者から本格派マニアまで日々ファンを増やし続け、ランチ時はオープン時間から速満席、平日でもすぐに完売してしまうほどの人気店です。
今日はそんなADIのオーナー兼シェフご夫婦、ネパール人のカンチャンさんと明日美(あすみ)さんにお話を聞きました。
ダルバートとは?
ダルバートとはネパールのオーソドックスな定食のことです。
ワンプレートで、中心にご飯(バート)、そのご飯を囲むように豆のスープ(ダル)、カレーやスパイシーな野菜の炒め物、お漬物があり、これらをご飯と混ぜながら一緒に食べます。
基本的に野菜中心なのでとってもヘルシー。
インド料理と比べるとスパイスがマイルドで素材の味も楽しめる優しい味ですが、一度食べると中毒性があり、定期的に食べたくてしょうがなくなります。
しかも食べれば食べるほどその魅力に取り憑かれてしまう不思議な料理です。
絶体絶命のピンチの中で生まれた絶品カレー
── カンチャンさんはいつ日本に来ましたか?
カンチャンさん:日本に来たのは2010年です。
ぼくの叔父が日本の大学で教授をしていて、ネパールに帰国する時に日本のお菓子やお土産を持ち帰っていたので、そこから日本に興味を持ち始めました。
それから大人になって日本に留学して、日本にある日本語学校で2年間勉強した後に日本の大学に入学しました。
── 大学を卒業してカレーの道に?
明日美さん:それが全然違うんです。ちょっと聞いてあげてください。笑
カンチャンさん:大学を卒業してからは大手アパレル企業に就職したのですが、休みがなくて。
もっとネパールに帰ったり家族に会ったりしたかったけどそれが叶わなかったので、1年半ぐらいでやめました。
その後はネパール人の友人と、日本で働きたい外国人の人材派遣会社を始めたのですが、始めて1年ぐらいで入国管理の法律が急に変わったことでビザの条件が厳しくなってビジネスが出来なくなりました。
それから今度はレストランの経営を始めてとっても上手くいってたんだけど、そのビルのオーナーの問題で突然お店を出なければならなくなってしまって……。笑
仕事が急になくなりお金もないしでいろいろ考えた末、間借りでレストランを始めたらそれがすごくうまくいきました。
── ええ!大変でしたね……。ではそこから波に乗ったのですか?
カンちゃんさん:それがとってもうまくいっているときに今度は急にシェフがやめることになって…… 。
明日美さん:しかもその時私と彼は結婚したばっかりのタイミングで、それを聞いた時は「え?!結婚したばっかりで夫がいきなり無職?!」って思いましたね。笑
カンチャンさん:シェフは辞めてしまったけれどお店も作ってしまっているし、どうしようかって悩みに悩んでその結果、「シェフがいないなら自分がなろう!カレーを作ってみよう!」と決意して、カレー屋さんを始めることにしました。
── あっという間に人気が出て順風満帆なお店かと思っていましたが、紆余曲折あったのですね。
カンチャンさん:僕は元々ビジネスマンにならなきゃいけないという教育を受けていて、大学もビジネスの勉強をしていたので、当時の僕は「ビジネスの道を歩まなければならない」という固定概念があって。
明日美さん:彼は本来職人気質でありアーティスト気質なので自分で物を作ったりする方が向いているのに、当時はそれに気づくことができなかった。
カンチャンさん:そもそもネパールではシェフという職業は親が勧めるような仕事ではなかったから、当時はシェフという発想が全くありませんでした。でも今ならビジネスマンより今の仕事の方が向いているってわかります。
カレー未経験から連日売れ切れの人気店へ
── ではネパールのカレーが作りたくて日本に来たという訳じゃないんですね。
二人合わせて:ないないないない!全くない!本当に急にやることになったんです。笑
明日美さん:実は彼はカレーを作り始めてまだ1年ぐらいなんですよ。笑
私もカレー屋をやると決めた時点では、ネパールカレーを作ったことも食べたこともない状態でした。結局私も当時の仕事を辞めて彼のお店を手伝うことにしたんですけどね!
── え?!カレーを作ったことがない状態からたった1年でここまでの人気店に上りつめるなんて、一体どんな勉強を!?
カンチャンさん:勉強はね何もしてないの。フレンチの店で1年間アルバイトをしたことがあったくらい。ただネパールには生理中の女性はキッチンに立てないという文化があって、その期間は男性が食事を作らなければならないので、僕も4.5才の頃からキッチンの外のお母さんから指示をもらいながら料理をしていました。だからスパイスは使い慣れていて。今でもお母さんからの指示を思い出しています。
── では、ここの料理はまさにネパールの家庭の味ですか?
カンチャンさん:スタイルも含め、ネパールの家庭の味に近いのだけど、日本の食材を使ってるから若干は違う。ただ作り方などは限りなくネパールの家庭の味です。
美味しさの秘密は日本の食材×ネパールのスパイス
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── ADIのダルバート料理のこだわりを教えてください!
カンチャンさん:スパイスは日本で手に入らないのでネパールやインドから取り寄せてますが、食材にはかなりこだわっていて日本の食材しか使いません。
例えば鶏肉ひとつをとっても国産のものに絞ってさらにそこから良いお肉を選んでいます。
実はネパール料理はインド料理みたいにスパイスをたくさん使いません。カレーの有名なスパイス、ガラムマサラもネパール料理では使わないのですよ。
ネパール料理で使うスパイスはシンプルに数種類だけで、そうするとカレーもさらっと軽いので、旨味がしっかりある食材を使わないと美味しくならないんです。
香りもスパイスの香りっていうよりも食材の香りを出したかったので、旨味も香りもしっかりある日本産の食材を使っています。
── カレー以外にもダルバートはおかずが何種類もありますがどうやって決めているのですか?
カンチャンさん:カレーは毎日のように種類が変わるのですが、そのカレーに合うか合わないかでその日出すおかずを決めて作っています。豆のスープも実は味が毎日ちょっとずつ違うんですよ。
”ご縁”と”ストーリー”で完成させたハートフルなお店
── 器は焼き物ですよね?ネパール料理ってステンレスの器で出てくることが多いから意外です。
カンチャンさん:食材だけじゃなくて器にもこだわっていて、うちでは益子焼の器を使っています。
明日美さん:ご縁があったんです。お店に通ってくれるお客さんのご紹介で。
カンチャンさん:僕たち夫婦は、職人さんを応援したいという気持ちが強くて。
明日美さん:その方は最近脱サラをして益子焼を始めた方なのですが、ご紹介いただいて会ってみたらとても感じが良い方だったので、作っていただこうと決めたんです。
ちなみにデザインにもこだわっています。ネパールはテラコッタっていう土器をよく使うので、そのイメージを取り入れた器を作ってもらいました。
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── 食器を焼き物で揃えるとなると大変ですよね?どうしてわざわざそこにこだわったのでしょうか?
カンチャンさん:僕たちは誰がどうやって作ったかというストーリーがあるものが好きなんです。
明日美さん:単純にめちゃくちゃ楽しいよね。
私たちは職人さんにめちゃくちゃリスペクトがあって、文化は使わないと残せないから残すためにも文化は絶対使うべきだと思っています。
カンチャンさん:彼を含め、紹介などで繋がることができたひとりひとりとのご縁でこのお店はできています。ちなみに照明に被せてるインテリアは明日美のお母さんが作ってくれて、クッションやソファーは明日美の手作り、店のほぼ全てを知り合いが作ってくれました。
今つけてるエプロンも明日美の手作りです。
明日美さん:本当にこのお店は全部手作りなんです。本来大工さんがやるところも一緒に作ったりしました。笑
職人さんへのリスペクトやストーリーを大切に、全てをイチから丁寧に作り上げているADI。後編はカンチャンさんの祖国ネパールの職人さんたちのストーリーを中心にお伺いしていきます!
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